薬局の看板の、向こう側
米国のCVSヘルスは、街中に店舗を持つ薬局チェーンとして知られてきた会社です。ただ、いまの事業の姿は、その看板から思い浮かぶものとは変わってきています。保険と薬局と診療を一社でまとめて提供する「医療統合企業」へと、軸足が移りつつあります。
その変化の核心にあるのが、2018年に約690億ドルで買収した医療保険会社Aetnaの部門です。米国では、保険と薬局と診療を一社で提供する垂直統合のモデルが進んでいます。日本の医療職が次の働き方や事業のかたちを考えるときにも、医療というビジネスの構造がどう動いているかは手がかりになります。
三つの柱が、一人の利用者の上でつながる
CVSヘルスの売上は、大きく三つの事業で構成されています。比率はいずれも概算です。
一つめがAetna、つまり保険の部門です。個人向け・法人向けの医療保険プランを扱い、売上の約45%を占める利益の柱にあたります。高齢者向け公的保険であるMedicareの補完プランも手掛けています。二つめがPharmacy Services(PBM)で、薬価の交渉や保険請求の中間管理を担い、約40%。安定した現金収入の源です。三つめが店舗薬局と簡易診療所を含む部門で、約15%。顧客との接点と、データの基盤にあたります。
この並びを見ると、CVSが押さえているのは、患者という入口と薬局という出口をつなぐ接点だと分かります。買収の狙いも、その接点から説明されています。保険・診療・薬局のデータを一元化すること、中間のマージンを圧縮してコストを下げること、慢性疾患の予防や服薬の最適化にAIを使うこと、保険と薬局と遠隔医療を組み合わせた新しい事業をつくること。この四つです。
品質の格付けが、経営の数字に返ってくる
米国には、保険プランの品質を政府が毎年評価して公表する仕組みがあります。政府機関CMSが発表するStar Rating(メディケア格付け)で、高齢者向け保険の品質を5段階で示します。4つ星以上のプランには政府からボーナスが支給されるため、格付けが上がると加入者が増え、利益率の改善につながります。
2026年プランの発表結果では、CVSのAetna部門は4つ星以上のプランに入っている加入者の比率が81%でした。ユナイテッドヘルスが78%、エレバンスが55%、ヒューマナが20%です。利益の柱にあたる部門の品質が高いことを、米政府の評価が公的に裏づけたかたちになります。
一方で、逆風も並んでいます。医療費のインフレ、高齢化にともなう給付支出の増加、保険料の引き上げに対する政治的な圧力です。品質の評価が良いことと、収益環境が楽であることは、別々に置いておく話になります。
構造を読む目は、自分の仕事にも使えます
この一社の話から取り出せるのは、企業の名前ではなく読み方のほうです。事業を部門ごとに分けて、それぞれが売上のどれくらいを占め、どんな役割を持っているかを並べる。外側からの評価があるなら、その評価が数字にどう返るかの経路を数える。そして、追い風と逆風を同じ紙の上に置く。ここまでやって、はじめて全体の像が見えてきます。
同じ手つきは、自分の働き方にも当てられます。いま持っている仕事を部門のように分け、どれが収入の柱で、どれが接点をつくる役割なのかを書き出す。役割の違うものを一列に並べていないかを見る。医療職として積んできた専門の力を、どの接点に置くのかという問いにもつながります。
なお、ここで挙げた数字にはそれぞれ時点があります。最新のものは各証券会社や公式IRで確かめられます。この記事は、個別の銘柄の売買を勧めるものではありません。