運動を始める人が増え、痛みも増えています
書籍や動画で、誰でも気軽に体操を学べる時代になりました。健康のために体を動かしたいという気持ちは、素晴らしいものです。一方で、安易な運動指導によって痛みや怪我を経験する方も増えています。特に中高年女性で、手首や膝、腰の痛みに悩まされている方が多い印象です。
この流れが根づき始めたのは、2020年のパンデミックによる自宅待機の経験からではないでしょうか。24時間ジムのエニタイムフィットネスは、2020年以降の3年間で226店舗増え、1000店舗を超えました。オンラインフィットネスも、それ以前はあまり普及していませんでしたが、2020年以降に急速に広がっています。
故障の側にもデータがあります。民間運動施設カーブスの調査では、4年間(2014〜2017年)で1,164件の事故報告があり、うち367件が救急搬送の事例でした。事故の87.3%は軽症でしたが、中等症が9.3%、重症も3.4%含まれています。
相談先として案内される場所で、起きていること
多くの運動指導には、痛みを感じた場合はすぐに中止して医師に相談を、という注意書きが添えられています。問題は、その医師が誰にあたるのかが曖昧なことです。
動画の指導者とは、直接会話ができません。病院を受診しても、レントゲンで骨折がなければ、検査と痛み止めの処方で終わることがあります。ヨガやジムでは、痛みがある場合に参加を断られることもあります。そもそもインストラクターの仕事に、治療の側面はありません。日本で治療ができるのは医師だけです。
つまり、案内されている相談先が、指導の側にも医療の側にも、はっきりとは置かれていない状態になります。
運動器を診る診療科が、日本にはありません
運動器の痛みや怪我を専門に扱うのは整形外科医です。リハビリテーション科は、主に脳疾患のリハビリを担っている印象が強く、運動器のリハビリテーション医学はどこか、と聞くと、国内では不在という答えになります。
欧米やアジアの他国には、PM&R(Physical Medicine and Rehabilitation)という専門医がいます。運動器の痛みや、慢性的な使い痛みを専門的に扱う医師です。日本にはこの診療科がないため、手術をしない整形外科医という立ち位置になります。
もちろん、骨折や断裂など物理的な修復を要する怪我については、引き続き保険診療の中での外科的な処置が要ります。分かれ目は、修復が要るかどうかです。
始める前に、相談先を決めておきます
必要なものは、二つに整理できます。痛みと怪我を生まない体操指導ができる指導者と、それを丁寧に診ることができる医師です。どちらも、痛みが出てから探すと時間がかかります。
体を動かし始めるときに、準備と指導を整えることと、相談先を先に決めておくこと。この二つを最初に置いておくと、途中で止まらずに済みます。日本の医療体制には、運動による痛みや怪我に対応する専門的な診療科がまだ十分に整っていません。この分野の発展が望まれるところです。
痛みが出た日に、探すところから始めずに済みます。指導する人と診る人を、動き出す前に決めてあるからです。困ってから走り回る動き方から、先に足場を置いてから動く動き方へ。準備というのは、慎重さではなく、止まらないための段取りです。