ジムに通い始めて三か月、腰が前より痛い
一念発起してジムに入会します。週に二回、続いている。フォームは動画で確認したし、重さも無理のない範囲にしている。
それなのに三か月たったころ、朝、靴下をはこうとしてかがむ動きが、前よりつらくなっています。トレーニングの日ではない朝にも、腰の同じところが張っている。
自己流で始めて痛みが出たのは、動いたからです。動かなかった人には起きません。ただ、そこから先は、自分の身体が今どんな状態かを誰が見ているか、という問題になります。
運動に関わる専門家は多数います。ヨガインストラクター、ピラティス指導者、パーソナルトレーナー、スポーツクラブのコーチ、理学療法士、運動専門の医師。それぞれが真剣に研鑽を積んでいます。そのうえで、立場によって見えているものが違う、という点が残ります。
スポーツチームにたとえると分かりやすいかもしれません。ヨガインストラクターはヨガの現場監督。ジムトレーナーは筋トレの現場監督。整形外科医は、現場監督を監督する総監督にあたります。現場監督は自分の専門分野で最高のパフォーマンスを発揮し、総監督は各現場監督の判断を全体の視点から俯瞰します。
なお、成果の秘訣は、適切な体操の種類が選定できているかどうかにある、という話が別の記事に置かれています。ここで扱うのは、その背景にある設計の視点のほうです。
診断の観点と、予防の観点
診断の観点では、運動を始める前に、その人の身体が今どんな状態かを医学的に評価します。見るのは五つです。関節の可動域(可動制限の有無)。筋力のバランス(左右差・前後差)。姿勢の歪み(骨盤・脊柱の状態)。痛みのパターン(動作時・安静時・夜間)。既往歴と現在の影響。
この診断的視点なしに運動を始めると、既存の問題が悪化するリスクがあります。
予防の観点では、今の運動が将来どんな障害につながる可能性があるかを見通します。見通しの対象として挙がるのは四つです。50代で膝を痛める可能性。肩の可動域の将来的な低下。腰部の慢性化リスク。骨粗鬆症と骨折リスク。現時点の症状だけでなく、5年後・10年後の身体を見据えて設計する、というのが予防の観点にあたります。
手術室で見てきたものが、設計の精度を変えます
手術室で関節を開き、筋肉・腱・骨・神経を直接目にしてきた立場からは、なぜこの人はここまで壊れたか、が組織レベルで見えています。どんな姿勢が、どんな組織損傷を生むか。どんな動作の繰り返しが、どんな疲労骨折につながるか。どんな筋バランスの崩れが、どんな関節症を生むか。
この、壊れ方を知っていることが、運動指導の精度を変えます。生活習慣や労働環境の改善まで含めて見通せるのは、手術室での経験があってこそ、という組み立てです。
運動を始める前に、確かめたい六つ
次に当てはまる場合は、運動を始める前に医学的な視点を取り入れる価値があります。過去に整形外科的な怪我や手術の経験がある。健診で複数の数値に異常がある。ジムや整体に通っていても改善しない不調がある。自己流で運動を始めて逆に痛みが出た。40代以上で本格的に運動を始めたい。経営者・医師・アスリートなど、パフォーマンス低下のリスクが大きい。
当てはまるものがあるなら、いきなりジムに入会する前に、医学的評価を受ける価値があります。
そのうえで目指すところは、外部依存ではなく自己管理の力です。自分で整える、という日々のメンテナンス習慣。自分で強くする、という適切な強度の筋力強化。自分で優しくする、という身体へのいたわりと回復。ジムに通わないと運動できない状態から、どこでも自分の身体を整えられる状態への移行が目標に置かれています。
出張先のホテルでも、その日の体に合わせて動けます。器具のある場所でしか運動できない、という条件が外れています。通える環境に自分を合わせる形から、どこにいても自分で整える形へ。自己管理の力というのは、場所に縛られない自由のことです。