夜十一時、まだ同じところを回っている
ある経営者の方から、こんな話をうかがいました。返事を明日の朝までに出さなければならない。材料は前の日にそろっている。それなのに、夜の十一時になっても決まっていない。
机の前で、同じ三つの案を何周も並べ直している。一周するたびに順番が少し変わる。けれど結論は、いつも同じところへ戻ってくる。ふと気がつくと肩が上がっていて、息が浅くなっている。
これは考えているように見えて、少し違うことが起きています。
材料は増えていないのに、はかりのほうが揺れている
決めるという作業は、材料を並べて重さを比べることです。材料がそろえば、比べる作業はそこで終わります。終わらないときは、材料の側ではなく、はかりの側で何かが起きています。
たとえば、朝から画面を見続けていて目の奥が重い。三日つづけて眠りが短い。昼に言われた一言が、まだ喉のあたりに残っている。どれか一つが原因というより、いくつかが同時にはかりへ乗っている状態に近いものです。
はかりが揺れていると、同じ材料を何度のせても、針は止まりません。だから「気にしないようにしよう」と決めても、うまくいかないことがあります。気にしている中身より、はかりが揺れていることのほうが先にあるからです。
何周もしてしまう人は、めずらしくありません。むしろ、材料をよく見る人ほど、よく回ります。ていねいに比べようとするほど、はかりの上をものが往復するからです。
何周もするのは、壊れているからではない
三日眠れていない夜の十一時に、この先を分けるような返事を一発で決められる人がいたら、そちらのほうが不思議です。何周もするのは判断力の問題というより、条件の問題として説明がつくことがあります。
そこで、扱う順番を入れ替える方法があります。決めることを一度わきに置いて、身体の状態のほうを先に動かす。立ち上がる、窓を開ける、眠る時間を確保する。頭の中の問題を、頭の外側から扱う形です。
気休めの話ではありません。考える中身と、考えるときの状態は互いに影響し合う。その前提に立った順番です。順番を入れ替えたところで材料は一つも減りませんが、はかりのほうは落ち着くことがあります。
スラトレ®が扱っているのは、この順番
スラトレ®は、考え方を上書きするものではありません。心と身体の両方を材料にして、自分の手で状態を整えられるようになるためのトレーニングです。何を考えるかではなく、どういう状態で考えるか。そこに手を入れます。
そのため、指導者が答えを渡す形はとりません。対話ノートという書き方を、自分の手で使えるようになるまで練習します。夜十一時に一人で回っているとき、手元に道具があるかどうか。扱っているのは、そこです。
道具が手元にあると、夜十一時の使い方が変わります。回り続けるのを待つ時間ではなく、書いて終わらせる時間になる。
書き終えて寝た翌朝は、はかりが平らです。前の晩と材料は一つも減っていないのに、決まるまでが速い。何を選ぶかを左右していたのは、材料よりも、こちらの状態でした。